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藤村随筆集

晩年の島崎藤村は、「簡素」という言葉を愛用し、食物では青紫蘇を添えた冷奴や胡瓜もみを好んだといわれるが、彼の生涯は自分の鬱屈した脂濃い体質を克服し、簡素・平俗に至ろうとする苦闘の過程であった。
その意味で、率直に自己を語り、しなやかな人生観を示す藤村のエッセイからは、その実像が鮮やかに浮び上がる。
八○余篇収録。
北陸敦賀の旅の夜、道連れの高野の旅僧が語る、若かりし日に僧が経験した飛騨深山中の怪異陰惨な行脚物語。
「高野聖」は自由奔放な幻想の中に唯美ロマンの極致をみごとに描き出した、鏡花文学の傑作である。
併収の「眉かくしの霊」は木曽街道の旅話に怪談的詩境を織り込んだ作者晩年の佳作。
その昔竜神が封じこめられた夜叉ケ池。
萩原はただ一人、その言伝えを守り日に三度の鐘撞きを続けるが……。
幻想と現実が巧みに溶けあわされた『夜叉ケ池』。
播州姫路城の天守にすむという妖精夫人富姫の伝説に取材して卓抜なイメージを展開させた『天守物語』。
近年新たな脚光をあびる鏡花の傑作戯曲二篇。
幼な子の昔、亡き母が唄ってくれた手毬唄。
耳底に残るあの懐かしい唄がもう一度聞きたい。
母への憧憬を胸に唄を捜し求めて彷徨する青年がたどりついたのは、妖怪に護られた美女の棲む荒屋敷だった。
毬つき唄を主軸に語りの時間・空間が重層して、鏡花ならではの物語の迷宮世界が顕現する。
うとうとと夢でも見そうなのどかな春の昼さがり、散策の途次たちよった山寺で住職から明かされたのは、一瞬の出会いののち、不可思議な夢の契りに相結ばれた男女の物語だった。
あくまで明るい春の光の中、夢は夢へと重なりあって、不気味な宿命の物語が展開する。
鏡花随一の傑作との呼びごえ高い連作。
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